瑞牆　十一面正面壁　ベルジュエール

メンバー：羽矢　洋、碓井桂子

　ベルジュエールの完登は今回で１１回目となる。我がHPのコンテンツ「ここだけの話」の引出しへ「９回攀ってもフリーでつなげられないルート」として書いたのは2002年６月のこと。

　その後の2007年５月に１０回目の完登を果たしたが、１ピッチ目でワンテンション入り、そのまま登り返すことなく山頂へ抜けたことで「10回登っても・・」のルートとなっていた。

　先週の城山南壁でのマルチ継続は快調だった。だから、もしかするとベルジュエールをフリーで行けるかなという気持ちがメラッと湧いた・・

　ということで、土曜の夕方出発。前夜はいつものとおり塩川ダムで車中泊し、朝は比較的早い時間に植樹祭広場へ上がっていく。

　で、先ずは腹ごしらえだ。長い一日になりそうだし、胃袋へ沢山詰め込む。

"今日は一日長いし、沢山食べて行きましょう。"

　通い慣れたアプローチはシャクナゲが盛り。あちこちに淡いピンクの花が咲き、目を楽しませてくれる。

"十一面正面へのアプローチではシャクナゲが盛り"

　十一面末端壁には、まだクライマーは到着しておらず、静かな壁下を通って累々と岩が堆積した不安定斜面を上がっていく。

　程なく正面壁基部に到着。

　ここもまだクライマーは来てはいない（というか、結局、正面壁は終日貸し切りだった。）。ゆっくり時間をかけて入念にストレッチ。失敗はしたくないという気持ちがあるものだからか、ただでさえ硬い体がいつも以上に硬く感じられる。

　僕は碓井さんに、オールフリーでリードしたいから全ピッチフォローに回って欲しいこと、さらにアプローチシューズ、雨具、食料、飲み物に加え, ６ピッチ目の大フレークでしか用のない4.5番のキャメロットまでも持っていただきたい旨、お願いすると、「もちろん！頑張ってね。」と励ましてくれる。いつもありがとうございます・・・。

　さて、スタート。１ピッチ目は凹角を右へ抜け、フェースに出てからのラインどりが複雑だ。しかし、前回の記憶は比較的鮮明。自分としてはこの１ピッチに３か所ある核心部の３か所目、ここは左のカンテ向こうにあるブラインドポケットを取りに行くところが背の低い僕にとってギリギリなんだけど、意外にもすんなりと取ることができ、無事登りきる。

　碓井さんは、さすがに重い荷物に喘ぎ、数ポイントでテンションを掛けることとなったが、スピーディーに登ってきた。

"１ピッチ目をフォローする碓井さん（ズーム写真）。ピッチの中間あたりで、ここも厳しい・・"

　２ピッチ目はグレーディングが誤ってると思えるほど、実は難しい。最初、ビレーポイントからは真上のハンガーボルトにクリップするために右上気味に上がって、小ハングの上縁を持ってからはいよいよ左へトラバースとなる。アンダーから、そして一段下がってフェース登りとなって、左向こうのコーナーに入っていくところが難しい。また、コーナーに入ってからも左足はスリッピーで、気が抜けない。ただ、プロテクションはきっちりと効いたハーケンが連打されているから、思い切って突っ込める。このピッチも無事足下に。この時、オールフリーの予感が・・・

"２ピッチ目の核心をなんとかこなして、ビレー中の碓井さんをパチリ"

　３ピッチ目は易しい。極薄のフレークは、初めてこのルートを登りに来た時（1984年）、既にあったが、今でもこうして残っていることが不思議だ。この上は、ルートが右へ90°方向を変えるところの立ち木でピッチを切る。

"３ピッチ目。ここの極薄フレーク、1984年に初めてこのルートを登った時からそのまま残っている！"

　４ピッチ目はコーナーに生える２本の檜をかわすように越えて、その上の滑り台みたいなフェースを登っていく。いつもは怖く感じるが、今回は不思議と怖さはない。快調、快調。

　ガメラの日本のマルチフリーに紹介されているトポでは、次のピッチをリンクするように書かれているが、ロープの流れを考慮し、檜だかアスナロだかの木が横に伸びている滑り台のどん詰まりでピッチをきる。

　だから、５ピッチ目。ここはハンドジャムがきっちりと決まるクラック。下の４ピッチ目とこのピッチは碓井さんの好きなピッチ。で、この５ピッチ目、普通ならハンドジャムで登って行くのだけど、ジャミングの技術レベルが低い碓井さんは、いつだって体を左右に振りながら、レイバック主体でリードしていく。そんな風で登れることが不思議・・。

　今回は、申し訳ないけど、リードさせていただく。

"５ピッチ目（ガメラの日本のマルチピッチでは４ピッチ目後半）。気持ちのいいハンドジャムセクション"

　登り切ったところが白クマのコル。

　さて、いよいよ６ピッチ目は大フレーク。

　キャメロットを持つようになる前は非常に少ないギアで登っていた。半分登ったあたりの一息つけるポイントで思い切り背伸びをし、４番のフレンズ（赤）を奥に決めたら、レイバックの状態になり、一気に登りつめる覚悟が必要だったけど、今はでかいキャメがある。４番を決め、後半のレイバックの途中に、優雅に4.5番のキャメを効かせたら怖さはない。隔世の感すら感じさせる、いや、内心、退廃の感すらあるピッチは爽快の一言に尽きる

　フォローの碓井さんは、さすがに背中の荷物が重く、幾分テンションサービスで切りぬけ登ってきた。

"６ピッチ目の大フレーク。露出感高いレイバック。気分は最高！！"

　７ピッチ目はバックアンドニーのチムニー。プアプロだけど、きちんと挟まっているから落ちる気はしない。

　右上方へ木立の中をてくてくと歩き、８ピッチ目のコーナー入口へ。ガメラのトポでは、コーナーを登って、突っ立ったフェースに突き当り、そのまま上のピッチをリンクするように書かれているが、この上が難しく、リードする自分としては見えている状態でビレーしてほしいから、いつも短く切っている。この８ピッチ目は登り口が複雑だけどコーナーに入ってからは傾斜は緩く、快適。

　さて、いよいよ９ピッチ目。このピッチ、過去においては苦手なピッチにノミネートされていたけど、前回来たときにあまりにあっさりと越えることができた。だから油断してしまった。

　最初の垂壁部は手の切れそうなフレークでレイバック。数ｍ上にあるがっちり効いていたはずのアングルハーケンは、過去にクライマーの墜落を止めたんだろう、お辞儀している。しかし、この前後もカムはきっちりと効くから問題はない。

"がっちりフレークをレイバックで登って、いよいよ万歳フレークへ"

　直ぐに左上するアンダーフレークに行きつく。右の小テラスで一息入れ、ついでにキャメロットを２個決めて入っていく。初め、万歳の形で両手ハンドジャムを決め（だから、僕は万歳フレークって勝手に呼んでいる）、その後アンダークリングに変えて左上していく。

　あと少しで左手がかっちり決まる縁を捕らえようとしたときに足が滑った。それなりに大きな墜落だったが碓井さんがきっちりと止めてくれた。

　これが実力と割り切ってはいるけど、正直泣きたくなった。

　ビレーポイントまで降ろしてもらって、直ぐにロープを抜いて、あらためて再スタート。

　万歳ジャムから右足をフレークと壁の間でフットジャムを決め、態勢を楽にし、左上。掛りのいいフレークの縁を掴んで、なんとか越えることができた。やれやれだ。

　碓井さんもここは苦労し、あがってくる。上がってくるなり、以前はこんなではなかったのに筋力が落ちたわ・・と言っているが、考えてみると、前回まではリードもフォローもザックなしで、お尻にアプローチシューズだけぶら下げ、登ってたんだ。

　さて、最後のピッチへ向かいましょう。大岩が複雑な地形を形成している中を縫うように最終ピッチの取り付きへコンテで上がっていく。

　ラストの10ピッチ目。登り始めは被っているけどハンドジャムはばっちり。だけど粒子の粗い花崗岩にハンドジャムだから、かなり痛い。若干被り気味に感じるこのパートは短く、ボルダーチック。最後の最後のフェースはチョイ辛のワンムーブが入って、ようやく天辺に上がり込む。直ぐに碓井さんを迎えて、この日のクライミングは終了。

"あとひと登りでピークです"

　結局、一度墜落を喫してしまい、ワンプッシュで登ることができなかったけど、登り返すことで取り敢えずオールフリーとなった。だから、やはり嬉しい。

　碓井さん、重い思いをさせてしまいました。ありがとうございました。トマトジュースを飲んで、元気を回復させ、下山しましょう。

"十一面のピークからの眺めは最高！！　で、一体何が可笑しいのですか？"

"コルからの下降は、この穴から・・"

＜行程＞

　植樹祭広場出発（8:10）−　正面壁基部到着（9:30) ＝　ベルジュエールスタート（10:10）−　ベルジュエール終了（15:05）＝　下山開始（15:15）−　正面壁基部戻り（16:05）＝　基部出発（16:20）−　駐車場帰着（17:15）