ヨセミテ　ハーフドーム　スネークダイク

メンバー：橋村昭男氏（グループ・ド・ロシェ）、塩田豊氏（札幌中央労山）、羽矢　洋、碓井桂子

　今回のヨセミテ詣での中で、是非とも攀りたいと思っていたスネークダイクだ。

　長い１日だから真面目に早起きをし、アッパーパインキャンプ場の駐車場へ車を走らせる。７時から動き始めるシャトルバスを待っているより、ハッピーアイルもそう遠くない事だし、歩き始める。

　今回のメンバーは凄い。写真左のお二人は北海道からこられた橋村さんと塩田さん。数日前にサラテを成功させた方々で、橋村さんは還暦を過ぎてサーティーンを攀られ、塩田さんもクラックをこよなく愛す１２クライマー。我々はすこしビビリながらのランデブーとなった。昨日、グレーシャーポイントから全貌を眺め、さらにマウンテンショップでアプローチを確認しています。情報はバッチリです。さあ、出発しましょう。

"二人の猛者に、我がマドンナ？も少しだけ緊張か？"

　ハッピーアイルはすぐで、ハーフドームへ続くハイキングトレイルを進む。ハイキングトレイルといってもバーナルフォール上までは概ね舗装路だ。途中、ハイキング道はジョウンミュアトレイルとミストトレイルに分けるが、我々はミストトレイルをとって、バーナルフォールヘ向かう。程なく見事なバーナルフォールに到着

"バーナルフォールは二筋の滝で、美しい"

　今日一日の長さを考えると、ゆっくりと鑑賞なんかしていられない。不安のないトレイルを進み、滝の落ち口からさらに先へ進んでいく。景色も美しく飽きることはない。少し先で対岸に橋で渡るが、下流側はナメを呈しエメラルドプールに続いている。素晴らしい光景だ。碓井さんが言うには、まるでクワンナイ川の様なんだそう（どうやら彼女は昔は沢ヤだったみたい・・）。尻滑りで思い切り遊びたい気持ちをグッと堪え、先へ進む。

"この橋から下流側は眺めてはいけない！　遊びたくなるから・・・。"

　前方上方には目指すリバティーキャップのドームが大きく聳えてくるようになる頃、ネバダフォールが見え隠れしてくる。第１の目標は近い。

"右の壁がリバティーキャップ。左の岩峰がマウントブローデリック。この間をアプローチし、コルへ上がっていくんだ！"

　程なく、第１ポイントに到着。マウンテンショップの定員が言うように、ミストトレイルを進むとネバダフォールに向かって道が九十九折れに変わる直前にリバティーキャップの壁にタッチする形になる。右はネバダフォールへ向かう一般道。スネークダイクはここで左にとって、リバティーキャップの壁に沿って上がって行くというもの。情報どおり壁に沿って行く。程なくネバダフォールの全容が見えてくる。この滝も立派だ。この時期、すっかり水を枯らし、有名無実となってしまっているヨセミテフォールは是非とも見習ってほしいものだ。

　

"ここで壁タッチし、左方向へ壁に沿うように上がって行くんだ　　　　　　　　　　ネバダフォールも美景・・！"

　初めはリバティーキャップの本当に壁際を伝うように高度を上げて行くが、暫くして、左下の傾斜の緩いガリーに降り立ち、岩の堆積した中を進む。岩は安定し、また、歩きやすいからさほど疲れることはない。

　次第に傾斜が緩みはじめるとコル状になるが、ここら辺りから若干右側へ、あくまでもマウントブローデリックとリバティーキャップの間のラインを進んでいく。

"ここまで登ってくると傾斜も緩くなってくる。ゆっくりゆっくりを合言葉に上がってくる３人"

　途中、大きい岩塊が積み重なるようになるが、それなりに歩きやすいラインをとっていくと左側にハーフドームの頭らしいものが見えてくる。ハーフドームを左手にしたまま暫く進むと、踏み跡は次第にハーフドームに向かうようになり、平坦な広い場所へ出る。目の前には、普段、雑誌の上でも目にする事のないハーフドームの裏側、南東壁がそびえている。でかい。また、目の前にはロストレイクの湿原が広がり、乾燥しきったヨセミテにもこんな桃源郷があったのかと、少しびっくり・・

　

"ひっそりとたたずむようにロストレイクはあった　　　ハーフドームの裏側。鎌形ハングにポーターレッジが一張りぶら下がっていた。"

　ここからは、ロストレイクの湖畔を右回りする形でハーフドームの左向こう、南西面を目指す。トレールはしっかりしているから心配は要らない。トレールどおりに進んでいくと次第にハーフドーム左側に向かってトレイルは上がっていくようになる。ところどころケルンが積まれ、間違っていない事が確認できる。

　駐車場を出発し、ここまで、もし、早起きしていれば基本的には日差しはほとんど当たる事がなく（ローデリックとリバティーキャップの間のコル付近では、少しの間、日差しがきついが、すぐに樹林に入るようになることから辛くはない）楽ちんだ。

　道は確実にハーフドームの左向こう、南西面を目指すようについている。見上げる先にはスラブが広がり不安感を誘うけれど、木陰にトレイルはつけられ、上手くスラブを避けている。小さなケルンが随所に積まれ、概ね安心だ。

　しかし、取り付きが近づくにつれ、傾斜も強まり、樹林もまばらとなり、キツイ登りに変わってくる。アプローチ最後の辺りでは山火事のためハゲ山状態となった斜面となり、日差しがこたえるが、エレベーションを上げているから風は涼しく、救われる。ほどなく取り付き正面に登りつく。

"長かったアプローチも終わりは近い。日差しは厳しいが、風は爽やか。"

　なんとか焼け残った立ち木の日陰で登攀準備。「FALCON GUIDE のRock Climbing Yosemite's Select」の92,93頁にスネークダイクのトポとルート写真が紹介されているが、はっきり言って写真は微妙に誤っている。また、今年、FALCON GUIDE からSUPER TOPO フリールート集が発刊されたが、こちらも旧版のパクリで、同様。

　登攀の準備に最適な木陰から右上のテラスへ一段上がると（てくてく歩いて）大きなケルンが積まれている。ここがスタートポイント。要は、トポだけを見て、写真は見ないことだ。トポに記載されている小さな立ち木２本は右上にあり、またそのクラックを含め左へ３番目のクラックを攀るという記載も自ずと分かってくる。写真を見ていると左へ行きたくなるから、見ないことだ。本報告写真（下の写真）のハング下までクラックを攀り、途中から、ハング左端に向かってスラブ左上。凄いランナウトだ。

　正確には２ピッチ目途中からダイクが始まる。この先は、終了点までダイクが導いてくれるから、心配は要らない。

　

"スタートポイントから見上げる。上のハングに向かってクラックからスラブ。　　　　　先行する２ピッチ目終了点の塩田さんを見上げる。"

　ダイクは蛇と言うより昇り竜のようだ。そして噂どおりスパーランナウト。だけど岩は硬く、ぽろりなんてこともないくらい硬くフレッシュ。日本の花崗岩とは大違いだ！

　

"３ピッチ目をフォローする碓井さん。 　　　 　４ピッチ目をスタートした橋村さん。"

　トポに記載されているとおりの数のボルトが、しっかりと打たれている。しかし、５ピッチ目でボルト見落とした羽矢は超超ランナウト（中間支点なし）で、このピッチを終える場面も。

　６ピッチ目ともなると傾斜も落ちてくる。ノーハンドで登れるところも出てきて安心モードに。ただし、相変わらずランナウトはスーパーものだ。

　トポでは８ピッチだけど安全を考え、もう一ピッチ延ばしてロープを解く。

　

"６ピッチ目。おいおい、クライミングだから３点支持が原則ですぞ　　　　　トポでは８ピッチ。だけど、もう一ピッチ延ばしてロープを解く"

　ロープを解いてからも傾斜の緩いスラブが延々と続く。これまでほとんど休みなく登ってきているから、この最後の登りが結構堪える。我慢我慢で一歩ずつ足を運ぶとようやくハーフドーム山頂大地に出た。思ったより広い。驚きだ。

　

"ロープを解いてからも緩傾斜のスラブが延々と続く。結構堪える。　　　　ハーフドームの天辺は思ったより広大だ！"

　多くのハイカーが憩う山頂に到着。食べ物を置いて離れた隙にカラスに散らかされている者もいたりする。こんなところまで地リスが生息しており、たくましい生命力に感心させられる。お決まりどおりバイザーの上で記念撮影。北西壁を覗き込むと一気に薙ぎ落ちている。凄い高度感だ。

　しばし休憩の後、下山に移る。手袋のことを知らなかった我々は橋村さんから軍手を貸していただく。また、途中、碓井さんは塩田さんから皮手袋も貸していただくことに。本当にありがとうございました。

　しかし、このワイヤー梯子、国が一般ハイカーに開放している事が不思議なくらい危険だ。小さな子、腕力のない者は大変だ。本当に一歩誤ると谷底まっしぐらモノ。不思議だ・・

　

"有名なバイザーの上で　　　　　　　　　　　　下山はこのワイヤー梯子から。結構マジもの。手がパンプしそう・・"

　ワイヤー"梯子を下りてしまえば、あとは埃っぽい道が延々と続く。途中、ハーフドームトレイルからジョウンミュアートレイルに入り、リトルヨセミテキャンプ場を突っ切り、ミストトレイルに入っていく。酷暑のこの時期にもかかわらずハイカーの装備は軽装で、と言うよりペットボトル１本を手にしただけの輩も多く、そんな連中は、一様にばてている。下山が核心だ。ネバダフォールの音を左に聞きながらジグザグに下りていくと見覚えのある場所、そう、壁タッチのポイントに出た。もう、気を緩めてもよさそうですね。ぽちぽち下っていきましょう。

　それにしても、ハイカーが多い。いつのまにか舗装道に変わったハイキング道をぽちぽち下っていくと、ハッピーアイルに到着。朝出発してちょうど１２時間だ。ハイキングガイドではワンデイハイクはスーパーストレニュアスと書かれているが、なるほどきつかった。お疲れ様でした。

　

"朝、壁タッチしたところへ戻りついた。あと少しです。頑張っていきましょう。　　　ハッピーアイル帰着。お疲れ様でした。"

＜行　程＞

アッパーパイン駐車場（6:55）―　ハッピーアイル（7:05）―　バーナルフォール（7:55）―　壁タッチのポイント（8:30）―　リバティーキャップとマウントブローデリックのコル付近（9:05）―　ロストレイク（9:25）―　取り付き点（11:25）―　登攀開始（12:05）―　終了（14:30）―　山頂（15:05=15:40）―　バーナルフォール（18:20）―　ハッピーアイル（19:05）―　駐車場（19:15）

＜アプローチ＞

　ハッピーアイル手前のアッパーパイン駐車場に車を止めて歩き始める。Vernal Fallを越えてNevada Fallに向かってMist Trail　を進む。マウンテンショップの店員が言うとおりLibaty capの壁に行き当たり、タッチした後、ハイキングトレイルと別れ、左へ上がっていく。程なくリバティーキャップとマウントブローデリックのコルへ上がり、そのまま鞍部を進んで行くと左手にハーフドームの頭が見えてくるが、すぐにスラブを上がる事は止めて先へ進んでいく。踏み跡は次第にハーフドームに向かうようになるから大丈夫。程なくロストレイクに行き当たる。

　道はしっかりとしており、湖畔を右回りにハーフドームの左向こう、南西面を目指すようについている。見上げる先にはスラブが広がり不安感を誘うが、基本的に木陰にトレイルはつけられ、上手くスラブを避けている。小さなケルンが随所に積まれ、概ね安心。ところどころ見失いそうになるが、しっかり探せばある。短気を起こしてスラブにラインをとると、きっとロープを出すことになると思う。基本的に取り付きまでは、ノーハンドで足だけで行けることを念頭にラインを探せばいい。丁寧に探せば確実に安全なアプローチ道が続いている。

＜メ　モ＞

・出発前日にマウンテンショップでMAP OF YOSEMITE VALLEY（漢字でヨセミテ渓谷地図と書いてもいます：8ドル95セント）を購入し、持参した。
・各ビレーポイントは、ハンガーボルト２本で構成されている。
・橋村・塩田パーティー、カルパッチョコンビとも９ｍｍ５０ｍのシングルロープで登攀。長さは５０ｍで丁度良い。
・我々は、水を一人３リットル持った。途中、迷子の少年たちに０．７５リットル譲ったが、最後には０．５リットル残せた。
・クライミングよりアプローチと下山が核心と感じた。疲れ具合は、穂高屏風のクラシックルートを上高地発着ワンデイで攀ったと同等と感じた。
・下山時、ワイヤー梯子を降りきったところで皮手袋が山と積まれているのを目にする。なるほど、全てのハイカーが皮手を持っていたわけだ。

＜エピソード＞

　ロストレーク湖畔を回り込み、ハーフドームの左向こうを目指して登り始めて少しのところで、左下の谷底から「Helpー・・! We were lost！」と悲鳴が。クライマーかと尋ねると、そうではないという。とにかく上がって来いと怒鳴ると、程なく４人の少年が上がってきた。聞くと昨夕５時にハーフドームに登頂し、下山にかかったが途中道を見失い（確かに、我々も下山時に、迷ってもおかしくないと感じる箇所を認識した。ハーフドームの岩の斜面とその後に続く石段を下りきった広い地形の場所で、彼等はここで道を誤ったと思われた。）、水も食料もない中、夜を明かしたとのこと。寒かったかと聞くと、一同口を揃えてYes!と答えたのが可笑しかった。彼らの空になったボトルに、水を７５０ｃｃ分け与え、すぐにロストレイクの下まで、確実に目で下降ルートが認識できるポイントまで連れて行き、リバティーキャップとマウントブローデリックの位置関係を示し、下降路について詳しく、しつこく説明をした。彼等が出した地図はヨセミテ新聞に記載されているもので、地図とは程遠い概念図であった。無謀さには本当に驚いた。彼等を見送った後、皆の待つところまで急ぎ戻ったが、基本的に樹林帯の中につけられたトレイルであることから、体力の消耗とはならず、また、ナイスなロストレイク湖畔を二度も歩けたからラッキーかな？